夏がくると思い出すことがある。
私は中学生・・だったと思う。
いつも学校から帰るとすぐに遊びに行ってしまう私も、出掛けられないときがある。
雨・・とくに夏の雷雨だ。
「今日は夕方雷だよ」と言われると出掛けるのをあきらめるしかない。雷は大嫌いだ。
母は群馬の女で雷は平気らしいが。
遊びにいけない私はじっと家にいる。母はなぜか機嫌がいい。
そして昔話などを聞かせてくれる。
これが、実に面白い。
ほとんど実話であり、内容は母の子供時代の話、娘時代の恋の話・・・などなど。
都会育ちの私には、昭和初期の農家の子供(娘)時代の話は興味深い上に、
母の話し方は上手で、ついつい引き込まれて、
雷が通り過ぎるまでの時間たっぷり楽しむことができる。
家の長女だった母は、弟妹の子守と農業の手伝いで家で
勉強する時間はなかったらしい。
予習も復習もできる状態ではない。
だから学校では先生の話を必死で聞いていたそうだ。
母は、教科書の最初に登場する詩を暗唱していた。
これは4年生の教科書、これは5年生の・・・。
そして、それを空で詠んで聞かせてくれる。
私は「もう一回、もう一回・・」と母にせがむ。
雨音の中、母の声だけが聞こえていた。
『あの夏描いた水彩画 今出してみて 夏思う
町のいとこが帰るとき あれほどほしいと言ったのに
ついやらないで そのままに 別れたことも懐かしい
ふと描き出す夏の夢 外はちらちら雪が降る・・・』
水彩画という詩。何度も聞いたから、私もちゃんと覚えている。
・・・冬になって、夏休みに描いた水彩画を引っ張り出してみる。
いとこが別れるとき、水彩画頂戴・・って言ったのに、
あげないでそのまま別れてしまった。
何となくちょっと後悔・・懐かしいような不思議な気持ち。・・・
なんとも、いい詩だ。
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