***ねこちん第6話  ゴックン!***
***平成10年秋のお話***

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その日我が家では、近所の友人たちが集まりお好み焼きパーティーをしていた。
やれ揚げ玉がないだとか、豚肉が多すぎるとか・・お酒も入ってとてもにぎやかな夜だった。
帰り際に友人がちーちゃんを見て「ねぇ、この子ちょっと元気ないんじゃない?
さっきまであんなに元気だったのに」と言った。
疲れて眠ったんだろう・・・と思って気にもしていなかったが、
眠っているというより、うずくまってるという感じだ。
時計をみるとすでに夜中の12:00を過ぎていた。
今晩は様子をみようということになり、ケージの前に私の布団を敷いた。

箱すわりをしている。決して体勢を崩さない・・・。そして目を瞑り、
じっと何かに耐えているといったらいいのだろうか。
「ちーちゃん、ヨコになったら?眠ったら?」と声を掛けても、まったく動かない。
「えっ?」死んでしまったのではと思うほど、動かない。
心配になって私はケージからそっとちーちゃんを出して、
自分の枕元に置いた。
よく見ると、かすかにお腹のあたりが動いている。
そうして「息をしてる」ことを確認する以外にない。
それほど動かない。
早く朝になって、朝になって・・・と祈るような思いで
ちーちゃんをずっと見ていた。

このまままったく眠ることができないまま朝になった。
病院が開くのを待って一番にちーちゃんを連れていった。
車の中でも、病院の待合室でもずっと声を掛ける。
「ちーちゃん、頑張ってね、もう少しだからね」でも「にゃん」とも返事がない・・・。
先生はちーちゃんの目を「アッカンベー」させて「う〜ん」とうなってしまった。
「入院させたほうがいいんだけどなぁ」と。
夕べから何度も「死んじゃうかもしれない」という思いがあった。
とっさに「先生、お願いします。家で家で診たいんです」と言ってしまった。
普通なら病院にお願いしたほうがいいに決まってる。
連れて帰ってもただ見ているだけで何もできないのに。
それでも「もし、だめだったら・・・」
先生は目を離したりしなかっただろうか、
ああしてくれたら、こうしてくれたら・・・なんて失礼なことを考えないだろうか。
その時、私はとっさに「死んでしまうなら我が家で、私の手の中で・・・」と思ってしまった。
先生は、「脱水症状を起こしてるから」と
太いリンゲルを2本、ちーちゃんの首に注射した。
「お水をこうしてためておけるのは、らくだと猫だけなんだよ」
私が半べそをかいているので、やさしく説明をしてくれる。
「夕方またいらっしゃい」と言われ、病院を後にした。
つれて帰ったちーちゃんをケージにそっと入れて、私も横になる。
夕べ一睡もしてない。ちーちゃんも私も・・・。
ケージの扉をあけ、私の手をいれてちーちゃんのそばに置いた。
暖かさが伝わってくる・・・ずっと、ずっとこのまま暖かいまんまいてね・・・。
すっーと睡魔がおそって、いつの間にかウトウトしてしまった。
気が付くと、ちーちゃんはケージの中のトイレにいた。
今朝まったく手をつけなかったごはんも、少しだが食べたようだった。
トイレの中でおしりをあげたり、さげたり、いきんでみたり・・・。変な格好をしている。
う●ちをしたいようなのだが、うまくできないのだろうか
「?」お尻から真っ赤なものが出てきた。
ふーちゃんの回虫事件を思い出すような色だ。
ちーちゃんはますます苦しそうな格好になっている。
これは手伝わないと・・・
私はティッシュを使い、真っ赤なものをちょっとひっぱってあげた。

「あれ?・・・・あれ?」どんどん出てくる。
まるで手品の国旗があとからあとから、ズルズルと出てくるアレと同じだ。
なんだろう??
それは、私の片手では間に合わないほど長いものとなった
ストン・・・やっと切れた。
わたしは、急いで洗面所にそれを持っていって、勢いよく水を出して洗った。
それは見覚えのある「ひも」だった。
少し前に家で野球のユニフォームのラインを縫い付ける仕事をしたことがあった。
ジャージに、伸びる糸を使って決められた色と幅のラインを縫い付けていく。
7ミリ幅の赤いライン・・・それがちーちゃんが飲み込んだものだった。

私はメジャーを持ってくると、それを測ってみた。
80センチ・・・おどろきの長さだった。

たぶん私たちがお好み焼きパーティーで騒いでいる後で、ゴックン、ゴックンと
飲み込んでいたに違いない・・・。

部屋に戻ると、ちーちゃんは、まるで今までの事が嘘みたいに、走り回っていた。


元気になったよ〜