***ねこちん第8話  ふーちゃんの恋***
***平成12年のお話***

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ふーちゃんは、最初新入り猫ちーちゃんが気に入らなかったようだ。
今まで「マザコン」と呼ばれるほど私を独り占めしていたのに、
後からやってきた猫にとられてしまったような気がしていたのだろう。
私はみんな平等に・・・と思っているのだが、
たずねてくる友人たちもどうしても可愛い小さい方に目がいってしまう。
しかもふーちゃんはあまり他人になつかない。
見たくれも黒くて恐い印象だ。誰も声を掛けてくれない・・・。
おもしろくなかったに違いない。
朝目を覚ますと、ふーちゃんが1階で鳴いている。
何事かと下へ降りてみると、
塾の窓のカーテンをあけてほしい・・・とスリスリしてくる。
我が家では一番庭の眺めがいいのがこの部屋だ。
「こんな早くからどうしたの?」
ふーちゃんはソワソワ・・・ソワソワして窓の外をみたり、
場所を変えてみたり・・・。
さすがにごはんの時だけはその場所を離れるが、
食べ終わるとまた直行だ。
「さては、何かお目当てがあるなぁ。」
私が授業の準備をしていたら、
ふーちゃんのソワソワが益々エスカレート。
もうどうしたらいいの??っという騒ぎ様だ。
窓の外を見たら庭に茶トラ模様の猫ちゃんが現れた。
ふーちゃんは窓に両手をつけて、
立ち上がって「ニャニャニャニャ〜・・・」
それはもう全身で「大好きだよぉ〜」というポーズ!!
相手の猫ちゃんもうれしそうに近づいてくる。
「どれどれ、ふーん、なかなかのべっぴんさんだ。
さすが、ふーちゃんは面食いだねぇ」
私が声を掛けるが聞いていない・・・。もう二人の世界だ。
私は、茶トラ模様の猫ちゃんに「トラ子ちゃん」という名前をつけた。
トラ子ちゃんは毎日庭にやってきて、窓のそばに座り、
そこで眠ったりゴロゴロと横になったりしている。
ふーちゃんは朝から晩までほとんど窓の前で過ごすようになった。
そしてトラ子ちゃんと窓越しに愛を語り合う(?)

それでもふーちゃんは、決して外に出してくれと言わない。
トラ子ちゃんも中に入ろうという気はないらしい。
窓越しの恋だ。

ふーちゃんとトラ子ちゃんの恋はまったく一途。
浮気だの目移りだのそんなものはない。(らしい)
こちらが恥ずかしくなるくらい一生懸命表現している。
その日もふーちゃんは朝からトラ子ちゃんを待っていた。今日のトラ子ちゃんは遅い・・・。
何か気配がするとそちらに体を動かして、ソワソワ・・・。それでもトラ子ちゃんは現れない。
とうとうその日、トラ子ちゃんは来なかった。そして次の日も・・・。
ふーちゃんは窓のそばから離れようとしない。ぜったい来ると信じてじ〜っと待ち続けていた。
授業に来た生徒さんから「すぐそこの道で死んでいる猫がいる」と聞いたのは、
トラ子ちゃんが来なくなって3日目の午後だった。
「どんな猫?」「茶色っぽかったかな、車にはねられたみたいよ」

トラ子ちゃんだったらどうしよう、ふーちゃんになんて言おう・・・
急いでサンダル履きで走っていった。
生徒さんに聞いた場所にその猫ちゃんは横たわっていた。
背中をこちらに向けて、道路の隅っこに。
その背中の模様は見覚えのあるトラ子ちゃんのものだった。
母親が子供に諭すように、ふーちゃんを正面に向かせ、
両手を握って話して聞かせる
「あのね、トラ子ちゃんはもう来れないんだよ」「・・・・・」
ふーちゃんの目は私を見ているようで、やっぱり窓の外を見ている。
「だからね、トラ子ちゃんは車にはねられて死んじゃったんだよ」
「・・・・・」

それから数日間ふーちゃんはトラ子ちゃんを待っていた。
それがピタッと窓のそばに行かなくなった。
驚いたことに新しい恋をみつけたらしい・・・。
「おいおい、あの窓越しの恋は何だったんだよぉ」
しかも相手はなんと・・・・・



「ちーちゃんかい!!」
思わず突っ込みたくなった。

それにしても、相変わらずふーちゃんは面食いだ。